顎の関節は筋肉を動力源として動く膝や肘、その他の関節と同じで、やはり筋肉を動力源とします。その点では、その他の関節と何ら変わりはありません。ただひとつ他の関節と違うところがあります。それは左右が同時に動くということです。
「右膝を曲げてください」と言ったら左膝も一緒に曲がる人はめったにいないと思います。肘も同じです。では、「右の口を開けてください」と言って左を開けずに右だけ開けられる人は絶対にいません。この左右の関節が同時に動くという当たり前のこと、しかし顎関節だけが持っている特有のことが顎関節症を引き起こす要因になっていると私は考えています。
考えてみてください。右手と左手の関節以外をギブスみたいなものでガッチリ固定したまま数日過ごすと、きっと肩や肘、手首、もしかすると指の関節に至るまでいろんなところにいろんな症状が出てくるはずです。顎の関節は、ずっとその状態なのです。
したがって顎関節の治療をするに当たって考えなければならないのは以下のようになります。
顎関節症の治療はドクターの考え方や経験、信じている理論によって大きく異なります。ドクターによっては肩こり頭痛、姿勢、体のバランスなどなども一緒に治療されるドクターもいらっしゃいます。
小川歯科医院では、残念ながらそれらの症状を解消することは出来ません。肩こりや頭痛などの症状と顎関節の関わり合いが判らないからです。ただ、「顎関節症の治療を行ったらそれらの症状が消えた」という患者さんはたくさんいらっしゃいます。
それでは、当医院で行う顎関節症の治療について具体的に以下に記しておきます。
小川歯科医院での顎関節症の治療は筋肉に対する治療から行います。先にも述べたように顎関節症は筋肉の問題、関節自体の問題、命令系統の問題、かみ合わせの問題それぞれが複雑に絡み合って起こると考えられるのでどれかひとつを治療すれば改善されるというものではありません。ただ、ひとつ言える事は筋肉が問題を起こしていない場合は少ない(私の経験上は皆無)ということです。
余談ですが、顎関節症の症状はいろいろあります。小川歯科医院では生活に支障が出ていないものについては治療の必要がないと判断することが多くあります。その代表的なものは「顎を開け閉めする時カクッと音がする」というものです。顎の関節は耳に最も近い関節です。耳と隣り合わせです。小さな音でも本人には強烈な音に聞こえるでしょう。また、この音が鳴るという症状は結構発症している方が多いのです。
しかし、そこに「痛み」を伴う場合は要治療です。また、痛みは無いけれど顎が少ししか開かないので食べ物を小さく切って食べなければならない状態や、あくびをすると顎がすぐに外れるので不用意にあくびができない、などは要治療です。つまり、「他の人が当たり前にやっていることが、顎の関節の調子が悪い為にできない」という状態は治療が必要と考えます。
話を元に戻します。筋肉の治療を行う場合、最初にマイオモニターという機械を使って超低周波を顎を動かす筋肉に流します。筋肉のコリや痛みが酷い場合は何度か来院してもらい2~3回流すこともあります。この低周波を流すことにより筋肉がリラックスした状態に近い状態にすることができます。そこで初めて治療器具である「スプリント」を製作する準備が整ったことになります。
「スプリント」とは、簡単に言えばリハビリ用のマウスピースです。スプリントを作成する為には、上下の歯の模型とその噛み合わせの記録を使います。歯の模型は歯医者でよくあるカタドリをして、そのカタに石膏を流し込んで作ります。
噛み合わせの記録は、普通(クラウンやブリッヂを作るときなど)上下の歯の間にシリコンのペーストを流して噛んでもらって、シリコンのペーストが固まれば出来上がりです。顎関節症のスプリントを作るときは「噛んでもらう」ことはしません。先に書いた超低周波を使って記録をとります。 なぜ、「噛んでもらう」ことをしないのかと言うと、脳からの命令で噛んだ噛み合わせが筋肉にとって適正なものかどうかわからないからです。
ここで記録したいのは「超低周波が流れた時に筋肉が収縮して上下の歯がどこで当たるか」です。つまり筋肉にとっていちばんシックリくる噛み合わせです。そのシックリくる噛み合わせを元に作成したスプリントを入れてもらうことにより、スプリントを装着した時は、筋肉がリラックスした状態を再現できるようになります。
後はこのスプリントを2~3週間毎に調整していきます。より詳しい説明は当医院にて。