歯周病


分類

 歯周病は歯肉炎と歯周炎にわけることができます。名前は似ている2つの病気ですが、現実は大きく異なります。

 歯肉炎はその名のとおり歯茎に起こる炎症です。歯周炎は歯の周りの組織が炎症を起こします。ここまで書いても同じように思われるかも知れませんが、「歯茎だけ」が炎症を起こすのと「歯の周りの組織」が炎症を起こすのでは全く違うのです。以下にそれぞれについて詳しく述べていきます。歯周病は糖尿病の合併症の一つと考えられていて、私が治療している患者さんで糖尿病を患っている方の多くは歯周病を併発しており、血糖値のコントロールができていない方ほど歯周病の状態も悪い兆候にあります。また、一説には日本人成人の7~8割が歯周病を患っているというデータもあるようです。気になる方はしっかり読んでください。


正常な状態

正常歯周組織
正常歯周組織

 炎症が起こると組織に次のような変化が現れます。

「赤くなる(発赤)・発熱・痛む(疼痛)・腫れる(腫脹)・使い辛くなる(機能障害)」これは炎症の5大徴候と言われるものです。この5大徴候がどれも無い状態が正常です。鏡で歯茎を見て赤みを帯びていなければ(きれいなピンク色ならば)正常です。この5大徴候はこの後炎症のステージが進んでいくと顕著になってきます。


歯肉炎

歯肉炎
歯肉炎

 歯肉炎は歯周病の入り口の病気です。この段階では「発赤」が起こります。なぜ発赤が起こるかと言えば、図のように細菌の生産培地である歯垢と歯茎が接触することによって歯茎の中に細菌が侵入してきます。体の中で細菌に対して抵抗する仕組みがあります。白血球です。細菌が侵入してきたことを察知すると血液を末端の組織に行き渡り易くするため末梢の毛細血管が拡張します。歯茎は皮膚が無いので毛細血管が拡張すると、モロにその色が反映されます。それで「発赤」を起こすのです。

 歯肉炎の段階では軟らかい再生可能な組織である歯茎だけが病気になるので歯周炎へ進行しなければ完全に元の状態に戻すことが出来ます。その手段は、ただ一つブラッシングです。この状態のときにブラッシングをすると拡張した毛細血管は簡単に破れます。その結果「歯ブラシをすると出血する」ことになります。問題ありません。拡張した毛細血管の中では細菌と白血球が死闘を繰り広げています。その結果その両者の死骸が血液の中に含まれているので「不潔な血液」と考えていいでしょう。また、ブラッシングすることで歯茎に刺激が加わり血行が促進されます。血行が促進されると新しい白血球がやって来るので細菌の数がどんどん減って、正常な状態に戻っていきます。

 


歯周炎初期

歯周炎初期
歯周炎初期

 歯肉炎の図2と比べてもらえばわかるのですが、歯茎の下の骨の上のほうが破壊されています。

 歯茎と違い骨は硬い組織なので回復に時間が掛かります。それと比べると歯茎等の軟らかい組織は回復が早いので回復の誤差が生じます。そのため、骨が元の状態に回復してしまう前に歯茎の炎症が治まってしまうので骨が完全に元の状態(図1)に戻ってしまうことは無いと言ってもいいでしょう。つまり骨に炎症が及ぶ歯周炎には完治がないのです。

 この状態になって一応「治った」と言える状態はこの骨の高さに対して歯茎の炎症が治まった状態のことを言います。つまり歯周ポケットが浅くなった状態です(図4)。歯の根の上のほうの部分が露出しているのがわかると思います。


歯周炎中期

歯周炎中期
歯周炎中期

 歯周炎初期の状態からそのまま放置していると、骨の破壊は進行します。ポケットの深さは、骨の破壊に伴い深くなっていきます。図5のように複数の根を持っている歯では根の又の部分にも炎症の影響が及んで、骨の破壊が起こり本来そこには無いはずの不良な歯茎が入り込んできます。初期で書いたように「完治」は無いからこの状態で歯茎の炎症が治まると、根の又の間に歯茎ができてしまいます。この根の又間に出来た歯茎の炎症は治りにくく、また炎症が治まったとしても再発しやすい傾向にあります。こうなる前に必ず受診するべきです。


歯周炎後期

歯周炎後期
歯周炎後期

 この状態になると本人だけでなく周囲の人からもはっきり異常がわかるようになります。いちばん顕著なのは口臭です。会話中、もっと酷い時は電車の中などで呼吸をしているだけで周囲の人はキツイ口臭がします。当然です。口の中にはいつも膿を持った組織があり、その口を通過して呼気を散布しているのですから。

 また、歯茎の腫れが酷くなり顔の形が変わることもあります。朝起きると口の中に膿や血液が溜まっていたり。 前歯であれば出っ歯でスキッ歯になってくることも。

 機能障害も起こります。食べたいものが食べられない。噛むと鈍い痛みがする。極度の根の露出により冷たい物がしみる。などなど、様々な症状が現れるようになります。

 脅しているわけではなく実際にそのような患者さんが来院されているのです。


歯周炎末期

歯周炎末期
歯周炎末期

 いよいよこの歯にとって最後のときがきました。考えてみると歯自体には何も問題はありません。歯の周りの組織(主には骨)が炎症によって破壊されたことによって問題ない歯を抜かなければならないのです。なんともやりきれなくなります。

 末期になると組織の中で歯が浮いているような感じ、前後左右上下に動く状態になります。全方向に動くのは歯の根の周り全方向の骨の裏づけが無くなったことを意味しています。

 通常、上下の動きは最後に起こります。当然です。歯周ポケットから炎症が進行して下へと進んでいくので根の先端の骨は最後に破壊されます。つまり、歯が上下に動くようになれば歯の周りの骨が破壊しつくされ、組織から歯が離脱する準備が出来たことを意味します。

 こうなると抜歯しかありません。考えなければならないのは被害を最小限に食い止めることです。この歯を保存することにこだわりすぎて炎症の範囲を広げてしまうことだけは、避けなければなりません。


歯周病への対策

 歯周病は歯肉炎の状態のときに治すべきです。そのためには定期的に歯科医院に行ってチェックとクリーニングをする。

 ブラッシングで汚れを100%落とすのは無理です。せいぜい上手な人でも70~80%ぐらいでしょう。残りの20~30%を定期的(小川歯科医院では半年に一回)に歯科医院でクリーニングするのです。

 7割8割しか汚れが落ちないのだったら心配になる方もいるでしょう。でも、残った汚れに潜む細菌に負けない歯茎を作ればいいのです。ブラッシングで血行を促進し新しい白血球を組織にどんどん供給するのです。美容院や床屋には1月毎や2月毎に通えるのに、歯医者には半年毎通えないことは無いはずです。

 定期的に通うことは金銭的にもメリットがあります。歯医者でいちばんお金が必要なのはカタドリをしてクラウンやブリッヂを作ることです。定期的に通うことで歯医者は治療する箇所が無くなっていき、やがては「歯医者に行くけど治療は無し、クリーニングだけ」という状態になります。そうなれば美容院や床屋と変わらない感覚で歯医者に通えるようになるのです。治療するにしても「ちょっと削って埋めるだけ」これが理想です。

 歯周病にしても虫歯にしても酷くなってから歯医者に行けば治療期間も治療費も多く必要になります。その上、治療も麻酔を必要とする比較的大掛かりな治療になってしまいます。短い期間で安価な治療を望む方は定期的にクリーニングに行くことをお勧めします。